日本の会社員の現状

■日本の会社員の現状
 電機業界は凋落の一途をたどり、コスト削減、人員削減など大規模なリストラが断行されている。希望退職募集などという言葉を使われているが、その実態は悲惨なようである。以下は、11月15日付の「週刊東洋経済」からの記事の抜粋である。
【解雇は当たり前、ニッポン雇用の修羅場】
 「合計10回の面談で精神的に追い込まれ、自殺すら考えた」
NECグループで教育関連の職場で働く男性(44)は、今年5月から始まった退職勧奨を振り返る。「君にやってもらう仕事はない」「残ってもどこの職場になるかわからない」。最初3回は直属の上司との面談だったが、4回目からは役員と人事担当者が現れた。その後7回、時に2時間を超える退職勧奨の繰り返しに、体重は5㎏以上も減った。
 東京労働局に申告したことで会社に指導が入り面談こそ止んだが、その直後、上司から罵声を浴びせられた。「お前は何をやったかわかっているのか、本社の人事も怒っているぞ」「お前に信頼できる仲間なんていないぞ」・・・。その後もサービス残業の強要などが続いているという。
執拗な退職勧奨も「あくまで希望退職」
「今回の退職勧奨の特徴はその執拗さだ」。男性が加盟する電機・情報ユニオンの森英一書記長は解説する。同社では従来、退職勧奨の面談はせいぜい2〜3回だった。別の40代男性は、面談の中止を要請したところ上司から、「会社からは何度やっても良いと言われている、法的にも問題ない」と告げられたという(後に撤回)。同社グループの希望退職には2400人弱が応募したが、「今回募集したのは、あくまで希望退職。退職勧奨はしていない」(コーポレートコミュニケーション部)との見解だ。
 東京商工リサーチの調べによれば、今年の上場企業の希望・早期退職者募集は10月末までに1万6000人を超えた。すでに昨年の倍で、リーマンショック後の2009年を超える可能性もある。募集人数が最も大きかったのが、半導体大手のルネサスエレクトロニクス。電機大手のNEC、シャープがそれに続く。
 産業の裾野が広い電機業界が"震源"となるだけに、取引先への影響などを考えると、これでも氷山の一角に過ぎないとみられる。すでに岡山県にあるシャープの下請会社は、正社員の4分の1にあたる200人弱の希望退職者を募集している。
退職勧奨と配置転換を解雇代わりにフル活用
業績悪化で国内工場の半分が閉鎖・売却に追い込まれたルネサス。閉鎖・売却対象となる9工場の取引先は、二次取引先まで加えると3500社弱に至る。同調査を担当した帝国データバンク情報部の内藤修氏は、「地元経済や雇用への影響は甚大」と語る。1200人超が働く鶴岡工場(山形県)では約300人が希望退職に応じたが、「地元の求人はスーパーや外食のパートばかり」(ハローワーク鶴岡)だ。
これは地方だけの問題ではない。「今の40〜50代はバブル期に大量採用されており、どの企業・産業にも分厚く滞留している。同一職種で、などとこだわっていては、まず再就職はできない」(再就職支援会社大手)とされる。
対象者の中心となるこうした40〜50代は、住宅ローンの返済や子どもの教育費など、もっとも家計負担が高まる時期でもある。たとえ相応の割増退職金があっても、再就職の当てもない中、おいそれとは希望退職になど応じられないはずだ。
 それでも多くの企業では、募集した人数まできっちりと応募が集まっているように見える。これには当然"理由"がある。日本では労働規制が厳しく、正社員を辞めさせることは難しいと言われてきた。確かに「労働契約法」には、客観的に合理的で社会通念上相当と認められない解雇は無効とする、「解雇権濫用法理」が定められている。
整理解雇の4要件は表面的な話
また会社の経営上の必要から行う整理解雇に関しても、その①必要性や②回避努力義務、③人選の合理性や④手続きの合理性といった「整理解雇の4要件」を満たす必要があるとされてきた。企業の労務担当者は、日本ではギリギリの経営状態まで追い込まれない限り、解雇はできないと考えてきた。
ただし、それは表面的な話に過ぎない。労働問題に詳しい弁護士は実情を語る。「日本では解雇に比べて退職勧奨や配置転換への制限はゆるい。こちらを活用するのが通常だ」。実際、NECグループにみられるように、希望退職者を募るためにこれらはフル活用されている。
 法律上では、退職勧奨それ自体は問題ない。ただ繰り返し執拗に迫る、脅迫するなどの強要は違法だとされてきた。冒頭の事例は違法性が高そうに見えるが、そこまで踏み込めた背景には、労務担当者の間では著名な、昨年末に東京地裁が出したある判決がある。「この判決が昨今の激しい退職勧奨の引き金となったのではないか」と、日本労働弁護団幹事長の水口洋介弁護士はみる。
 08年、日本IBMの社員が退職強要を受けたとして同社を訴えた事件で、東京地裁は昨年末、原告全面敗訴の判決を出した(東京高裁も控訴棄却)。判決では退職を拒否されても勧奨を中断する必要はなく、再検討を求め翻意を促すことも許されるとされたためだ。
こうした退職勧奨の嵐を乗り越えても、次に待ち受けるのが望まない配置転換だ。配置転換も企業側に広範な裁量があるとされる。
 「物流子会社への出向になります。一定期間経過後に転籍になる可能性もあります。評価が下がるのはもちろんのこと降格人事もありえます」
昨年8月、リコーの40代の技術者は、退職勧奨を行う4回目の面談で上司からこう告げられた。適性を見た上での配属、とされた出向先はなんと物流倉庫だった。
 リコーは昨年7月、グループで1600人の希望退職を募った。結果的に募集人数を大幅に超過したにもかかわらず、個別の退職勧奨に応じなかった社員に子会社への出向や配置転換を命じていた。
「人選理由がまったくわからない。私の場合、これまで多数の賞を受けてきたが、物流子会社に出向となってから、『直前の評価が低かった』と後付けしてきた」
同社主力のカラー複合機の設計・開発を最前線で担い、登録特許100件以上の「パテントマスター賞」を受賞した50代の技術者は憤る。この男性は現在、物流倉庫で段ボール箱から商品を取り出す開梱作業に従事している。
畑違いの業務で最低評価
そこで社員資格相当の成果が上げられていないとして、上司の査定では多くの項目で最低評価がつけられた。「これまでのキャリアをまったく生かすことができない畑違いの肉体労働で、能力が低いとされるのは、極めて理不尽な話」。
 男性らが東京地裁労働審判を申し立てたところ、今年5月に出向は権利濫用で無効とされたが、会社側が異議を申し立てたため民事訴訟に移行している(同社は係争中に付きコメントできない、としている)。
退職勧奨と同時に職場から締め出す手法(ロックアウト)も表面化してきた。
 「社員証を置いて、この場でお帰り下さい。私物は後日、宅配便で送ります」
10年4月、米国通信社ブルームバーグ東京支局の男性記者(50)は、人事担当者から退職勧奨を行われた直後にこう告げられた。リーマンンショック後の09年12月、突然上司から、「PIP」(成績改善計画)と称するノルマが示された。
過大なノルマの未達を理由に解雇
「年1本書ければよいほうの『ベスト記事』を、月1本出すなどあまりに過大なノルマ」(男性記者)だった。退職勧奨はこのノルマ未達を理由として行われた。自宅待機を経て、結局4カ月後には"能力不足"を理由に解雇された。男性は解雇無効を訴え提訴。取材ノートやスクラップ帳、原稿の入った端末もすべて会社に押 さえられてしまっており、証拠集めに苦労したという。
 今年10月、東京地裁は合理的理由がなく解雇を無効とする判決を言い渡したが、同社は控訴。和解の席でも「原職復帰は絶対認めない」と発言するなど、締め出しの方針を変えていない(同社は判決内容を詳細に検討した上で対応を検討中、としている)。
こうしたロックアウト型のなかでも極め付きは、能力不足を理由とした普通解雇と組み合わせた、「ロックアウト型普通解雇」だ。ここでも"主役"は日本IBMだ。
 日本IBMの社内システム関連部門で働いていた松木東彦氏(40)のキャリアは、突然断ち切られた。今年9月18日の夕方5時ジャスト。上司にミーティングだと会議室に呼ばれると、面識のない人事担当者が入室し、名乗る間もなく、一方的に書面を読み上げられた。「早口でよく聞き取れなかった」(松木氏)が、それは解雇予告通知だった。
 9月26日付けでの解雇だが、明日以降は出社禁止。この日も午後5時36分までに退社するよう命じられた。書面を渡された後、人事担当者の監視の中、短時間で私物もろくに整理できないまま、追い立てられるように退社した。
退職勧奨や配置転換もなく締め出し
渡された解雇予告通知には、2日内に自己都合退職をすれば解雇は撤回し、割増退職金や再就職支援会社のサポートを提供するとの「ただし書き」がついていた。希望退職を募るどころか、退職勧奨や配置転換の手間すら飛ばし、即座に職場から締め出す新手の技だ。
男性が加盟する労働組合、JMIUの三木陵一書記長は、「IBMにいる10人以上の組合員が解雇されたが、解雇理由はすべて能力不足の一言で具体的な説明すらない」と語る。  これではひとたびその対象とされたら、社員側は身を守るすべがない。実際、解雇通告されたショックで、多くの社員が自己都合退職に追い込まれたという(日本IBMは取材に対してノーコメント)。
 「今回の日本IBMのロックアウト型普通解雇で、日本のリストラは第4期に突入した」と、リストラ事情に詳しい、キャリアコンサルタントの砂山コウ三郎氏は語る。第1期は特定の中高年を狙い撃ちにしたもので、第2期は業績悪化に伴う全従業員を対象とした希望退職。第3期は整理解雇をちらつかせて希望退職を促すJAL型、そして今回の日本IBM型を筆頭とする強攻策が第4期という訳だ。
 こうした解雇自由化の流れは、製造業を中心とした大手企業だけにとどまる話ではない。製造業で失われた雇用の受け皿として期待されるサービス業もシビアだ。雇用問題に詳しい『MyNewsJapan』の渡邉正裕編集長は実情を語る。
 「ある大手アパレルは多くの新卒社員を入社半年で店長にしてしまう。店長は朝7時から夜の10時まで延々と仕事をしているが、『管理監督者』だとして残業代がつかない。そんな『名ばかり管理職』が横行している」
 「新卒で他社を知らない若手は、会社とはそういうものかと勘違いして頑張ってしまう。結果、激務で倒れたり、ウツになったりして、多くが自己都合退職で辞めていく。会社はそれで残る人だけでよいとする。これは新手のリストラではないか」
中小・零細企業ではすでに解雇「自由」
雇用環境が厳しい中、中小・零細企業にきちんと目を向ければ求人などいくらでもあるという議論もある。だがこと安定した雇用という面からは遠い。中小企業ではすでに解雇が"自由化"されているためだ。
 「身内の不幸で有休を取得したら解雇を通告された」「データ改ざん指示を拒否したら解雇された」「店長から『俺的にだめだ』という理由で解雇された」――。
労政政策研究・研修機構が編集した『日本の雇用終了』には中小企業を舞台とした、耳を疑うような解雇事例が多数掲載されている。同機構では全国の労働局で行われたあっせん事例を詳細に分析。裁判例からは見えてこない、中小企業の解雇の実態を明らかにした。調査研究を担当した濱口桂一郎統括研究員は、「裁判所ではまず認められない、協調性がないなど『態度』を理由にした解雇が多い」と語る。
 総務省が10月末に発表した9月の完全失業率は、前月横ばいの4.2%。世界的に見れば依然として低水準だ。だが、厚生労働省が同日発表した9月の有効求人倍率は0.81倍と、3年2カ月ぶりに悪化へと転じた。主要産業の中で新規求人数が大きく落ち込んだのは製造業だ。
 とりわけエコカー補助金の終了を見越した自動車など輸送用機械が前年同月比5割減と激減した。電機業界が総崩れの中、仮に自動車業界でも人員削減が行われる事態に陥れば、電機業界を遙かに超えるその裾野の広さも含め、雇用に与える影響は計り知れない。
 休業手当の一部を助成する雇用調整助成金も「景気が持ち直している」(厚労省)として、緩和されていた支給基準が10月から厳格化された。みずほ総合研究所の試算では、09年次には助成金効果で失業率が最大1.4%抑制されている。
 セーフティネットを緩めた矢先に、景気減速が表面化。歩を合わせるように、大手から中小まで、なし崩し的に解雇が自由化され始めた現実が、ビジネスパーソンに襲いかかる。もはや誰でも解雇、失業はひとごとでは済まされない。【週刊東洋経済11月17日号掲載記事を加筆】
 マスコミ報道では報じられない雇用現場の実態が浮き彫りになっている。
大手製造業ばかりでなく、下請けを含めた中小零細の現場では、さらに過酷なリストラが断行されている。無法地帯とも呼べる雇用の実態であるが、それだけ企業は生き残りをかけて戦っているともいえる。
外資系企業特有のロックアウト型解雇も熾烈化しており、日本企業も同様な手法が横行することになろう。
単なる不況ではなく、恐慌型のリストラが全産業に吹き荒れ、大量の失業者を生み出す"修羅場"が拡大しているのである。
 現職にある方も明日は我が身として、早急に準備対策を打たれた方がよいだろう...。