透明人間のように退職した部長

■「サバイバル!」(服部文祥著、ちくま新書、2008年)を読む。
 単行本で読んでいた本であるが、分かっていて借りた。もっとも影響を多く受けた本の一つである。何度読んでもいいし、幾分忘れているところもあった。分かっている場所も読み飛ばすことなく丁寧に読み進んだ。いわば、教科書というべきか。
「登山は判断の連続で成り立っている。なのに登山者の目に、判断の正誤が見える形であらわれるのは、致命的に誤っていたときだけだ。正しい判断にご褒美はなく、生存という現状維持が許される。小さな失敗は見えない労力や苦痛になって返ってくる。そして決定的な失敗をしたときに、登山者は死という代償を受け取ることになる。」
「何かをしようとするとき、われわれはそれを可能にする『道具』を探すようになる。」
「現代文明の便利な機械は、人間から身体感覚を奪ってきたのである。」
「入出口まで道路があるのにそれを避けてヤブや河原を歩くほど原理主義者ではない。平気でタクシーに乗ってしまうほど鈍感ではない。利用するのは公共交通機関だけと決めている。」
「防虫ネットをかぶって眠る〜」
「計画書を提出することは登山者の義務やルールのようにいわれるが、計画書の提出は登山者が自由に選択する戦略の一つである。」
「登山者とは自立した自由なる精神を、そのリスクを含めて知っている人」
「〜細かい休息をたくさん取ってその都度少しずつ水を飲む。」
「熊による年間の死者は5名、そしてハチによる死者は毎年30〜40名〜」
「持参する食糧や装備〜1500年代の探検家が持って行った装備に近い」
「自然環境のなかでは知識の威力は絶大である。」
「1時間幸せになりたかったら酒を飲みなさい。三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。八日間、幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい。」
「単独の場合〜想像される悪場を考えると〜消化器官が不調になったりする。」
「『登山は体力だ』というのは身も蓋もないが事実である。『判断力』や『技術』の方が重要だと言いたい気持ちもどこかにあるが、体力がなければ判断力も技術も身体能力も持っていないに等しい。」
「怖い、ということを正しく認められること、これは登山の重要な能力である。」
「お金にはなんの価値もなくなり、代わりに肉体が存在感を持って現れてくる。」

■透明人間のように退職した部長
日経アソシエからの抜粋である。
最近、職場での生き方について考えさせられる出来事がありました。会社はいざとなれば冷たいもの。しかし、会社員をしていく以上、その理不尽さをも受け入れる時が状況いかんではありうるかもしれません。
「あの頃、〇〇さん(男性のこと)は机に向かい、考え込む機会が多かった。会社を休むようにもなった。出社すると、役員から呼び出しを受ける。1〜2時間、会議室で話し合いをしていた」
周囲から孤立し、最後は「透明人間のようにスーッと退職し、消えていった」ようです。かつての部下である編集者たちは「真相は自分たちのレベルではわからない」と話します。
失意で退職をしたのかもしれませんが、聞くところによると、男性は近く、違う出版社で書籍編集者として働くようです。その会社は前職と比べると、売り上げや社員数などの規模は15分の1くらい。給与も相当に下がることでしょう。しかし、50代になっても転職先が素早く見つかったのは、彼のこれまでの実績によるものが大きいと思います。彼もまた、耐える時には耐えて力を身に付け、実績を残したのです。