山と渓谷

■「山と渓谷」(近藤信行編、山と渓谷社、2012年)を読む。
 田部重治選集と副題が付いていた。地元の登山家である。名前は知っていたが、その功績については詳しくは知らなかった。最初の記述において、田部氏自身のことではなかったが、富山から歩いて富士山に登頂した人の話が出てくる。思わず、見とれてしまった。
 地元の登山家であることと、山行の内容で自分が経験した山も含まれており、ゆっくり読まざるを得なかった。読みながら自分の経験が頭に浮かぶ、急きょ地図を広げて確認するということを繰り返して、文庫本なれど4日もかかってしまった。しかし、こういう本はゆっくりと味わいながら読まなければならないと思っている。
 内容はすごいの一言である。大正から昭和初期の話しなので、全て草鞋である。主な登山としては『槍ヶ岳から日本海まで』『毛勝山より剣岳』『小川谷より朝日岳まで』『朝日岳より白馬岳を経て針木峠に到る』には思わず思考が停止してしまった。
 長次郎との付き合いも長く、その様子が刻銘に記されている。当時写真が無かったのでこのように文学的に書かれることは記録として貴重であると思う。
 最も印象に残った内容を抜粋しておきたい。
『山に登るということは、絶対に山に寝ることでなければならない。山から出たばかりの水を飲むことでなければならない。なるべく山の物を喰わなければならない。』
『今まで何かむつかしい問題の解決には、まず山にはいる習慣をもっている。そうすると、どこか問題の根本に触れる力が生ずるような気がするのである。』
『山はケーブル・カーや飛行機で登るべきものではなく、やはり足をもって登るべきものである。〜便利には相違ないけれども、本当の登山趣味は知らず知らずのうちに減殺されている。〜山を本当に鑑賞するならば、歩行しつつそれらに接するのが本当だと思う。』