KAROUSHI

■創作

田圃には小さな花が咲き出した    禅智

朝のニュースでは春本番というフレーズを流している。この時期は黄砂が降りか かる。今年は、これにPM2.5が加わるらしい。
気温は高くなったが、街路樹はまだ蕾である。庭先に咲いている花があったが、名 前は知らない。そういえば、花の名前はあまり得意ではないことに気付く。
 県内ゆかりの作家の作品で、「花の降る午後」という小説に感動したことを思い出 した。単行本で買った。20年以上前のように思い出す。あのころは、「知的生活 の方法」という本に感化され、本は買って読まなければならないと思っていた。毎月2万円ほどであったかと思いだす。しかし、本箱は言うにおよばず、床にダンボ ール詰めしていたが次第に生活環境を浸食してきたので、図書館利用に切り替えた。
  ちょうど、新刊でも読みたい本が少なくなって来たと思っていた頃である。
  田圃の中に目をやると、これも名前は知らないは小さな白い花が咲いている。昨日は無かったので、咲き始めたところだ。昔雑草というと、雑草という名前の花はありません、とナチュラリストの人にたしなめられたことも思い出した。
   帰り道、やはりこの時期の花は沈丁花であろうと少し遠回りして帰宅した。香水のように強い匂いは春到来を告げている。

■KAROUSHI
日経ビジネスからの抜粋である。
 「世の中の人は、うつ病の人がいかにも憂鬱な表情で、口数も少なく、うなだれていると考えがちですが、実際は違う。そういう状態になるのは、かなりの重症のうつ病のみで、絶対多数を占める軽症のうつ病者は、苦痛に耐えながらも相手に悟られぬよう努力して、なめらかに話し、にこやかに笑顔を浮かべて対応するのです」
 「うちの会社でも、1年前に自殺があったんですが、借金を抱えていたとかで、会社の問題にはされなかった。でも、過労自殺だって、もっぱらの噂でしたよ。実際、仕事量は半端ないし、上からのプレッシャーもすごくって、離脱していく人が多いポジションでした。その方は、結構頑張っていた人だったんですけどね。堪えられなくなっちゃたんだと思います」
なんだかなぁ……。数字には反映されない、闇に葬られた“過労自殺”があることは知っていたけれども、実際に話を聞いたのは初めてで、私にはかなり衝撃だった。もし、彼の言う通りなら、「死に至る原因が1つではない」という事実が、会社に都合よく使われてしまったということになる。
 そういえば、過労自殺問題を専門にしてきた川人博弁護士から、自殺した人たちのほとんどが、「会社に迷惑をかけて申し訳ない」「期待に応えられず、すみません」といった遺書を会社や上司に残すと聞いたことがある。で、それを逆手にとり、企業が責任を回避する。そんな傾向があるのだ、と。
 1人の人間の命より、企業のイメージ。働く人たちの命より、企業の生産性、ってことなのか? 
過労死――。これはそのまま「KAROUSHI」と訳されるように、数年前まで、日本人特有のものと考えられてきた。
 ところが、グローバル化が進み、世界規模で働く環境が激化したことで、KAROUSHIは世界的に広まっている。フランス、イタリア、ドイツ、中国などでも、職場のストレスによるうつ病や、過労による自殺などが増えていると報告されているのだ。
 なぜ、グローバル化でKAROUSHIするのか?
 答えは“スピード”である。
 グローバル化で競争が激化したことで、企業環境は複雑さを増した。事業活動の数を増やし、業績目標を高くし、生産性にこだわり、スピードを重視する企業が増えた。こういった取り組みは、短期的な競争には効果的で、企業の業績は一時的に向上する。
 だが、「スピード重視の文化」を継続的に進めていると、やがて従業員のエネルギーは消耗し、やる気が失せ、手を抜くようになる。
 すると、経営陣は「どうにかしなければ」と焦り、社員へのプレッシャーを強め、より労働者たちは疲弊する。さらに、うつ病になったり、身体を壊したりする社員が出ると、残った人たちの負担は増える。その結果、ますます労働者は疲れ果て、生産性は下がる。つまり、「スピード重視の文化」は、長期的には企業業績の悪化を招くというわけだ。
 このメカニズムを、ザンク・ガレン大学教授のハイケ・ブルック教授らは、「The Acceleration Trap=加速の罠」と呼んだ。