吾妻山

■吾妻山
 梅雨が明けた。昔から登山の最適期間として梅雨明け10日と言われている。おまけに3連休である。こっちは年中休みである。しかし、誰も登山に誘ってくれない。まあこれは、自業自得である。歩きは遅いわ、足は吊るはで自分と登ると迷惑になるからである。
 ところが、何のきっかけかは忘れたが、くさのさんと連絡する機会があり、自分は3連休に吾妻山登山を書き込んだところ、くさのさんは岐阜の山を登山する予定であることが分かった。そして、ご一緒しましょうという流れになった。しかし、この時点でまだ問題があった。自分のような失業者が遠出するには、節約志向になる。百名山一座を一万円ぐらいで実施したいと考えており、富山から福島まで一般道を走り、車中泊ということを連絡し合ったところ、くさのさんも一般道愛好家であった。
 午前中は、鳥の会の機関紙発送のお手伝いだったので、昼過ぎに出発になる。
 荷物が多いので自宅まで迎えに来てもらい、ナビで行先を入力すると約12時間かかると出た。
 何はさておき昼食を食べることになった。行く店を物色し合っていたら、最近開店したうどん屋さんを紹介してもらった。

 幸運にもキャンペーン製品があった。これはすだちうどんであり、ドリンクバー付きで400円であった。うどんは本格的手打ちうどんで大いに満足した。
 ナビで行先の天元台ロープウエイと入れ、一時間ごとに運転を交代して行った。
 夜になったので、夕飯を食べることになった、翌朝の朝食も準備しておかなければならない。車で走っているとなかなか入るには勇気がいる。明日の登山後はラーメンになると予想しており、ここは和食の店を選ぶことにした。

 途中飛ばした区間もあり、約10時間でロープウエイ駐車場に到着した。無料駐車場で、既に15台ほど止まっている。空を見上げると星座が近くに見れ、北斗七星だけ分かった。駐車場の標高は920mであったが思ったより寒くはなかった。
 そして、就寝の準備である。ここで、くさのさんの車の出番であった。手慣れた手つきでフルフラットシートになった。車中泊で足を伸ばせて眠れるのはありがたい。熟睡できたようであった。
 朝は4時ごろに目が覚める。周りが慌ただしくなっていたためである。若者2名はこのころから出発していった。吾妻山の最高峰は西吾妻山であり、奨励されている登り方は、ロープウエイ、リフト3回で1820mまで登り、そこから2時間ほどで登頂できる。しかし、ロープウエイの始発は8時20分である。若者は5時ごろでかけていった。方角を見ると林道で登頂するようだ。車は通行止めであるであるが人間は通れる。まあ、どんな登り方をしてもいい。
 我々はロープウエイで登ることにしていた。朝食のパンを食べ終わっても6時過ぎである。空は快晴である。このまま、2時間漫然と時間を過ごしてはもったいない。
ロープウエイは、往復1500円、リフトを合わせれば3500円である。今の自分には無視できない金額である。そこで、ロープウエイを使わないでリフト場まで行く方法を探した。なんと、別の登山口が見つかったのだ。地元で言えば、立山ケーブルカーを使わずに材木坂で行くのに似ている。さっそく、看板の地図通りに登山口まで移動した。

 登り30分と表示されているが、もっとかかるだろうと心する。傾斜はなかなかであった。しかし、早朝の山歩きは実に気分がいい。自然余裕が出てきて周辺の樹木観察も行う。イヌブナがあった。

 樹林帯なので風が吹けば気持ちのいい風が全身を包む。汗などでないとタカをくくっていたが、びっしょりになった。この時期、汗が大量に出るので水分と塩分が必要である。自分の体重×行動時間×5mlが必要なので、ポカリ2Lを携行した。

 尾根に出た。木漏れ日と木陰のコントラスが芸術的で十分に癒し効果があった。

 出口を出たら驚いたね。見渡す限りのゲレンデになっており、豪華そうな建物が場違いのように建っていた。リゾート地のようだ。
 ここからリフト3本である。リフトの始発は8時30分である。まだ、小一時間ほど時間がある。しかし、登山客が数組いるではないか。ここに宿泊されている方たちである。

 切符を買うと2100円であった。ロープウエイと合わさると100円引きになるようである。そして、発車時刻にはだいぶ早かったが、リフトに乗せてくれたのである。最近、横柄なところが多いが、ここは利用客目線で素晴らしいおもてなしを受けた。
 スキーリフトに並んで座った。眼下を見ると植物に標識が立ててある。リフトに乗りながら植物観察ができるような趣向になっており、ここれはいい。ここは力試しをすることにした。シラビソとオオシラビソの違いやコメツガとツガの違いは明確に分かっていたが、やはり現物を見ると間違ってしまう。このような初歩的な識別も出来ないようなら合格点には届かないだろうと猛省であった。
 リフト終点の北望台に到着する。ここで標高が1820mである。コースは2通りほどあるが、最短コースにした。カモシカ展望台に向かう。
 岩がゴロゴロしており眺望も良かった。先日登った蔵王連峰が近くに見える。

名前の書いてある標識がかすんで見えない。

 次の目印の分岐点に向かう。今日はハクサンシャクナゲがたくさん咲いている。

 分岐点に着いた。

 ここから少し下る。先の方を見通すと、大きく広がった平原に木道がダイナミックに敷設されている。池塘なども見え、弥陀ヶ原や雲の平のような雰囲気であった。

 そして木道の脇には、コバイケイソウをはじめとして、コイワカガミチングルマ、サラサドウダン、ワタスゲ、ミヤマホタルイ、モウセンゴケなど確認できた。

 そろそろ疲れが出て来る。時計を見るとまだ9時代である。精神的に余裕が生まれた。これからは、8時以降出発の登山は敬遠しようかとも思う。
 次のチェックポイントは水場である。木道が終わったところから、登山道に水が流れている。水場があった。十分に飲むことができた。

 ここから岩の急登が続く。次のポイントは梵天岩である。水場から梵天岩までのルートが一番辛かった。

 そして、15分ほどで天狗岩である。

 天狗岩から西吾妻山まで15分ほどである。急登もあったが水平道も多かった。
 登頂である。

 最高峰地点であるが、標識しかしかなく。何名か通り過ぎている人がいた。頭に巻いていたタオルはずっしりと重く少しでも乾かそうと樹木に掛けた。
 眺望もなく写真を撮ってもらって直ぐに下山である。そして、途中でタオルを忘れたことに気が付くが諦めることにした。しかし、この判断がのちのち大変なことにつながるとは、この時点では予想にもつかなかったのであった。
 天狗岩には祠があるので、お参りにする。この時点で足取りがおかしいことに気が付いた。力が入らない、一歩が靴半分の距離しかならならない。吐き気がするし、足の指がこむら返りする。

 自分では分かっていた。これは熱中症のⅡ度の状態である。ポカリを飲んでいるが口の中が甘ダルクなり受け付けない。下山は登りより遅くなっている。
 やっとの思いでリフト乗り場に来たが、もう限界に近い。そして、ロープウエイを使わないので、最期の下山口に向かう。

 熱中症の症状の時は身体の体温を下げなければならない。ここから樹林帯なのでそれなりに涼しくなった。しかし、追い打ちをかけるように汗問題が発生した。一歩下るごとに汗がめがねのレンズに降りかかる。汗の粘度は高いようで、レンズにへばりつく。汗でびっしょりの服でレンズを拭くが多少取れる。汗が付着したレンズ越しの登山道は乱屈折して見える。くさのさんが20m先のゴールで手を振っている。最後の急坂を降りようと枝につかまって足を下したところ滑ってしまった。私の身体は180度回転して登山道に打ち付けられた。目の前の滑落事故にくさのさんが駆け寄る。幸いリュックのお陰で頭は打っておらず、熱中症の症状だけであった。
 この通りである。

 下山口には、温泉場がある。一刻も早く水でもかぶらなければ病院送りになりそうだ。半歩ずつ歩きながら車のところへ行き、着替えを持って露天風呂に向かう。この露天風呂は周りの覆いがない。解放感抜群である。くさのさんが先に入って、気持ちよさそうである。

 足指の痙攣に耐えながら、やっと間に合ったという安堵感もあり、幾分冷静に湯に足を浸けた。その途端、山の神様を恨んだ自分がいた。何か悪い事でもしたか!?お湯の温度は野沢温泉の総湯ぐらいの温度であり、とてもゆっくり入ってはおられない。しかし、入泉料は払ったので少しは入っておきたいという貧乏性が頭をもたげげた。普通は、温度を下げる水の蛇口があると思い探したがない。源泉かけ流しだけであった。
 数秒漬かり、我慢できなくなって立って露天風呂の端に足を乗せたりしていたが、外からは丸見えだったようだ。しかし、そんなことを考えている思考状態ではなかった。くさのさんから指摘された時も、エエイ!出血大サービスだ!とうそぶき、脱衣所で風にあたり体温を下げていた。本来であれば冷やさなければならない体温を逆に上げたらⅢ度になるかもしれない。この場合は、熱痙攣や顔が青くなる。
 露天風呂から出た時は、ふらふらであった。
 ここから帰路であるが、コンビニで飲み物を4種類買うも、身体は水分を要求している。2時間も走っているとだいぶ緩和してきた。
 結局、昼は抜きになった。ロープウエイを使わなかったのでその分を食事に充てましょうと肉を食べるためにレストランに向かう。しかし、既に閉店していたので、何軒か店があったが、ラーメン屋さんに入る。
 空腹感はあまりないので、普通盛りではなく、ミニサイズを頼んだ。

 テーブルの上には氷の入った水ポットが置かれた。いっぱいに満たされていたが、二人であらかた飲んでしまった。ミニサイズでもなかなか減らない。
 帰路吾妻山を振り返る。ロープウエイ、リフト、から始まり、避難小屋など登山に関するアイテムが全て入っていた。いつまでも思い出に残る登山になった。

■くさのさんからの写真