燃料貧乏

■「氷壁」(井上 靖著、新潮社、1996年)を読む。
 昭和31年の穂高の話であり、古典とは言わないまでも様々な書物で取り上げられており、読んでおきたかった。しかし、図書館では単行本や文庫本にはなっておらず、分厚い全集の一巻を借りて来た。700ページほどあり枕のも成りそうな厚さであった。
 二人の主人公を死なせてしまうことが残念であった。ハッピーエンドでは無かった。この作家の弟子が昨年亡くなった山崎豊子さんということも最近知ったところだ。
 穂高の地名が至る所に出て、臨場感がある。著者はフィクションと書いていたが、実際の遭難を題材にしているのだろう。
「山から降りた人間は、だれでも多少人に飢えて、人懐っこくなっている。」
「登山家というものも、いい加減なところでやめないと、いつかは生命を棄てているだろう。」
「理性と正確な判断が勝利を収めて、初めて勝利に価値があるんです。」
「山へ登るために山へやって来たのである。」
「人間というものは五十の坂を越すと、もはや自分は、自分以外の何にもなりたくないのだろう。」
「老いかかった肉体をある若さに留めておこうとするのは、なんといっても、これは無理ですし、人間のあさましさが見えて嫌ですね。」
「そして自分もまた、どうせ死ぬのなら、山で死に、こうして焼かれたいと思った。」
「少しでも疲れを感じたら、出来得る限り休養を取ることにしている。」
「人の近付くことを烈しく拒否しているような、穂高の裏側の暗いきびしい岩壁の表情」
「人間幸せな時には、黙ってじっと静かにしていたい」

■燃料貧乏
日経ビジネスからの抜粋である。
「英国で急激に電力価格が上昇している背景を分析した。主な原因は、市場は自由化されているにもかかわらず、「ビッグ・シックス」と呼ばれる大手電力会社6社による寡占が続いている状況にあった。だが、その電力価格よりも、上昇カーブが激しいエネルギーがある。ガスである。
  このガス価格の上昇が、英国では新たな社会問題を生み出している。「Fuel Poverty(燃料貧乏)」と呼ばれる、貧困層の拡大だ。暖をとるためのエネルギーコストを賄うだけの十分な所得がなく、「食べるか、部屋を暖めるか」という選択を強いられている世帯だ。政府の定義によると、(1)支払わなければならない燃料コストが英国平均を上回り、(2)燃料コストを支払った後の残余所得が貧困ラインを下回る、という世帯を指す。
  燃料貧乏は、特に高齢者にとって深刻な結果を招いている。英統計局は、イングランドウェールズでは昨年の冬、深刻な寒さによって3万1100人が死亡したと推定している。前年より29%の増加である。死亡者の82%が75歳以上の高齢者だった。寒さそれ自体は直接的な死因ではないが、長時間、低温に晒されることで免疫機能が低下するほか、高血圧や血液濃縮、血栓などを引き起こしていると指摘している。
  「日本版の燃料貧乏」が社会問題にならないためにも、英国を反面教師として、電力源や石油・ガスの調達先を多様化するほか、住環境のエネルギー効率をさらに高めるなど、エネルギーコストの上昇を抑える万全の策を講じておくことが必要だろ