火打山

火打山
 コースタイムを山と高原地図で確認すると、笹ヶ峰→(20分)→笹ヶ峰歩道分岐→(45分)→黒沢→(100分)→富士見平→(50分)→高谷池ヒュッテ→(15分)→天狗の庭→(75分)→火打山となっている。登りでは6時間以上かかる。今の自分の実力は3時間以内と考えており、高谷池ヒュッテで一泊と考えていた。
 先日、吾妻山に同行してもらった、くさのさんに次回の山行きの話をすると、あまり遠いと翌日の仕事に差し支えるので近いところがいいと伺っており、火打山の件を切り出すと快諾された。また、一座1万円以下にしたく、一般道を走り、テント泊ということも伝えてあった。
 しかし、台風12号が近づいており、西の方に進路を取ったが、火打山周辺にも影響が出るものと推定された。そこで、山の天気サイトで前日での降水確率が30%以上の場合は中止としていた。テレビの予報では本州直撃なので、諦めかけていたが、山の天気で確認すると、28日は20%、夕方から台風の影響で40%、29日は10%ということであったので、決行することになった。
 初日は登頂しないので、昼過ぎに登り始める。登山口の気温は24℃であった。実は、自分は3回目である。前2回はいろいろなアクシデントが重なり、心が折れてしまったのであった。

 熱中症対策も万全である、とはいえ、日焼け止めと汗止めだけである。途中まで勝って知ったる登山道を歩く。いつものように、第一チェックポイントの黒沢でタイムを確認するとだいたいコースタイム通りで登れているので、そのまま続行する。

12曲がり付近で蜂に刺される。アンダーウエアの上から刺している。幸いスズメバチではなかったので少しは安心であった。黒いアンダーウエアは不適なのだったなあ。そうこうしていると、2回目をさされた。アナフィラキシーショックも考えたが、我慢のできる痛みであった。
 そして、リュックが壊れてしまった。胸の前で止める部分が元から外れてしまった。まあ、致命的なモノではなかったのでそのままにしておく。
 このコースは、12曲がりから富士見平までが急登である。ここで遅れが出始める。

 今回の登山の目的の一つに30Lリュックにテントを入れて登れるかの確認があった。テント泊を前提に70Lリュックも買ったが、リュックの自重が重く、長く歩けないことが分かっていた。そこで軽い30Lリュックに入れてどこまで歩けるかを確認したかった。

 やっとの思いで富士見平に着いた時は、日没との勝負になっていた。山の日暮れは早い。そこで、真剣にビバークを検討する。しかし、地図で確認すると、等高線に沿って登山道が切られていることが分かり、もう一時間頑張ることにした。ここは、水平道が多くほぼコースタイム通りで来れている。
 もうすぐと思っているとかすんだ高谷池ヒュッテの建物が見えた。

 高谷池ヒュッテテント場に到着し、ずっしりと汗に濡れた、アンダーウエアとミドルウエアを着替える。これをしておかなと低体温症に陥る。風が強く、テン場では火を起こせないので、ヒュッテで交渉し、中でお湯を沸かさせてもらう。くさのさんは、暖かいウドンを食べていたが、自分はアルファ米にお湯を入れてもらったが固形物を受け付けない。そこで、食べれないままテン場に移動する。10張りほどのカラフルなテントが設営されていた。
 ありがたいことに、下は砂場であり、マットもシュラフも持ってはいるが持って来なかったので、これはありがたかった。ちょうどテントを設営しているころから雨風がひどくなってきた。

 19時ごろには、眠りに着けたが、台風の影響だと思うが、風がひどくテントが壊れてしまうのではないかと心配された。そして、悩まされたのが風であおられたテントが、頬を打ち付けるのである。ビンタをされているような感じである。風が強いので、内側から押さえて気休め程度の補強を行う。21時ごろになると寒くなる。低体温症の恐れがあるので雨具を羽織り、無理してパンを口に入れる。流石にこれで暖かくなった。1時、3時と覚えている。ほとんど眠れていない。
 翌朝はガスがひどく、雨風も強い。我々は雨具を付けて、5時前に出発する。主なモノはテント内にデポし、ほとんど空荷の状態で出発する。しかし、私が地図を読み間違えており、1時間15分で登頂できると考えていたが、2時間ほどかかってしまった。風がひどく、満足な歩きができない。大半が木道であったが、風で押されて木道から外れてしまう。ハイマツが茂っている場所は、バリケードになってくれたが、吹きさらしの場所では、身体が持って行かれそうになる。しかし、背中から風が吹いてくれる場所では、風で押されて楽であった。山を2つほど超えて登頂である。
 いつものように三脚を立て並んで一枚の写真にしようと試みるも、三脚が立てられないので、一人づつ撮ることになった。私はメガネをかけると見づらくなるので、ずっと外したままであった。


 こんな日に登頂する人はいないと考えていたら、一人とすれ違った。そして、テン場に着くころには何組かとすれ違う。このころは、雨も上がっており風もなく、青空が出ている。
 テン場に着いて、大休憩をし、ゆっくりと撤収する。10時に下山開始である。
 私の体力は底をついていた。2日間で食べたのが小さい総菜パン2個だけである。下山は、足裏も痛くなり、富士見平まで50分のところ75分ほどかかり、遅々として進まない歩きになった。前はこういう歩きではなかったと思うが、いつからこうなったのだろうか。リュックが重くなり肩に食い込む。この山は、全長9kmで1kmごとに標識がある。
あと1kmの標識で、くさのさんより1時間ですね、と声をかけてもらう。なんと、自分の下山速度は時速1km〜1.5kmまで落ちていたのだった。
 駐車場に到着した時は、座り込んでしまい靴と靴下を脱いでサンダルに履き替えようとしたが、立ち上がれない。やっとの思いで助手席に乗る。
 温泉は決めていた。林道沿いにある。450円と安価でさっぱりとした。喉が異様に乾くので、自販機でペットボトルを買う。
 昼食・夕飯兼用の食事である。少し贅沢であったが、3食分なので問題はない。

 帰路に着く。くさのさんと清算をしたが、2,800円であった。一座1万円はクリヤーできた。
 長年の希望であった、火打山は一人では登頂できなかっただろう。遅い自分に合わせてくれたくさのさんのお陰で、大いに感謝したい。自分も以前、遅い人と歩いたが、そのイライラは分かっている。この方は、昨年亡くなってしまったが、次は自分が迷惑をかけている番だ。しかし、テントを担いで5時間ほど歩けたので今回の登山で、少し幅が広がった思いだ。

■くさのさんから送っていただいた写真